日本で学習者レベル参照基準が重要なのはなぜか

生徒のクラスやテキストを決める際に使われる「入門」「中級」「上級」という言葉は、私たち誰にとっても馴染み深いものです。ただ、具体的には生徒のどんな能力を表したものなのか、さらに上のレベルの能力を生徒が身につけるためには何を教えればいいのか、といったことまでは分かりません。

文科省による決定で、2020年以降は、大学入試で英語の「書く」「話す」というアウトプット力を測るようになると同時に、小学5年から英語が正式教科になります。目標は高校卒業時に4技能全てにおいてA2+〜B1レベルに達成している生徒の割合を50%以上にすることです。生徒にもっと期待をかけている国もあり、そういった国々に比べれば現実的な目標であります。とはいえ、英語教育を取り巻く現状や、CEFR基準の意味することについての認識不足を考慮すると、日本でも容易なことではありません。

今回は、評価基準やスコア、グローバル・スケール・オブ・イングリッシュ(GSE)と、英検やCEFR-Jといった日本独自の基準とGSEとの対応をテーマに、ピアソンのGSEプロジェクトを主導するJacqueline Martinとの対談を紹介いたします。
Q:
生徒の上達を測るために参照基準が必要なのはなぜですか。
Jacqueline Martin:
あるレベルにいる生徒は何ができるものなのか、その生徒が次のレベルに達する手助けをするためには何を教えればいいのかといったことを、参照基準なしに把握するのは非常に難しいからです。例えば、ある学校で教師たちが捉えている生徒たちのレベル感は、人や場所が変われば異なってくる可能性があります。教科書の著者や教材を作る教師には、どんなタイプの生徒がどのレベルでは何を学ぶ必要があるのかを示した明確で具体的な指針が必要なのです。
Q:
「グローバル」な基準がなぜ重要なのですか。
Jacqueline Martin:
国をまたいだ進学や就職の機会が広がるなか、企業や教育機関は、採用や入学資格審査に使える明確で信頼性の高い基準を求めています。志望者の側も、せっかく多大な努力を注ぐなら、世界に通用するものを取得したいわけです。
Q:
それはつまりCEFRが答えであるということですか?
Jacqueline Martin:
CEFRが成し遂げた功績は素晴らしいことですし、大きな進歩であると言えます。しかし、対象が大人向けの一般英語に限定されていること、そしてヨーロッパの学習事情に基づいて作られた基準であること、特に初心者レベルと最上級レベルに顕著なのですが、技能・レベルごとの学習指標に偏りがあること、レベルを細かく分割して指導に使うのは難しいことなどから、CEFRこそが答えであるとは言いにくいところもあります。CEFR自体、あくまでも言語や環境にそれぞれ合わせて応用するための土台として開発された枠組みなのですから。
Q:
そこでグローバル・スケール・オブ・イングリッシュ(GSE)の出番というわけですね?
Jacqueline Martin:
そうです。CEFRのディスクリプタをさらに具体的に細かく分けて増やしたものがGSEであり、生徒が「何をできるか」という観点でさらに詳しい情報を提供するものです。また、GSEは技能・レベル間でのCEFRディスクリプタの偏りを改善し、児童、学生、社会人など、置かれた状況により要求される能力が異なることも考慮しています。
Q:
英検のようなローカル基準との対応はどうなっているのですか。
Jacqueline Martin:
学習の効果を最大にするためには、生徒自身が学習目標と個人の環境や経験を結びつける必要があります。本人にとって関連があり、意味のあることでなければいけないのです。国によってニーズや文化的な経験は異なりますし、学習経験が学習者の置かれた状況を考慮して調整されていれば習得が容易になります。これを可能にするのがローカル基準です。ローカル基準とグローバル基準を並べて対応させ、重なる部分を確認することで、教師は生徒たちが両方の基準の中で成果を出せるようなプログラムに沿って教えているという確信が持てるのです。
Q:
でも、ローカル基準とグローバルな基準はそもそも対応するのですか?
Jacqueline Martin:
はい。私のチームでの研究から、生徒の知識面・能力面で密接に対応していることが分かっています。つまり、GSEのシラバスに沿った学習は英検対策に必要な学習範囲を大部分カバーしていることになります。同じように、英検に合わせたシラバスに沿うことでも、世界に通じる英語を学習しているという裏付けが得られるのです。
Q:
それは便利ですね。
Jacqueline Martin:
もちろん、うまく対応させられるように工夫する必要はあります。主な学習目標は同等のものを維持しながら、生徒に示す際の文脈や実践練習の場については、その国の生徒たちに合わせて変えるべきです。ここで肝心なのは、主な学習目標が失われないように細心の注意を払い、一貫したガイドラインに従ってローカライズすることです。例えば、O’SullivanとDunleaが作成した表が便利です。元々の設定レベルを失わずに各試験をどこまでローカライズできるかを示したものです。日本では東京外国語大学の投野教授が、CEFRを応用する際に元の意味を失わないような方法や理想形の標準モデルを発表しています。
Q:
日本でGSEをローカル基準と対応させるにあたり、現在の状況を教えてください。
Jacqueline Martin:
ピアソンでは、世界のどこであっても、そして読む・書く・聞く・話すといった4技能に限らず語彙・文法についても、GSEとローカル基準との対応・比較を確実なものにするため、GSEディスクリプタの共有と評価を続けています。また、日本を含め、世界各地で数々の教師・研究者と、GSEに対応した英語教授・アセスメント用タスク作成のベストプラクティスとは何かを日々探っています。教材やアセスメントをローカル基準とCEFR/GSEの両方に対応させる作業も行なっています。


Jaqueline Martinについて

心理学・教育学で学士号、初等教育のPGCE、そしてCELTAを取得。大学卒業後にイギリスの小学校で教え、成人を対象に英語を指導。Primary向けELT出版では、オックスフォード大学出版局・ピアソン合わせて17年のキャリアを持つ。ピアソンには編集者として入社し、PrimaryのPublishing Directorを含む事業戦略関連の役職を務めたのち、2017年1月よりGSEチームに加わり、子ども英語教師向けの基準およびツールの開発の指揮を取る。これまでに日本を含む世界で20以上のマーケットを訪問し、各地に向けたコースブックの研究・制作・刊行に携わっている。

関連サイト

日本向けのGSE学習指標(CAN-DOリスト)について、詳しくはこちらのページをご覧ください:
http://www.pearson.co.jp/en/company/gse/ecosystem/#objectives